2.イスラムその1 服装

 イラン航空の機内ではアルコール類はいっさい出なかった。イスラム教では酒類は厳禁なのは知っているが、機内はまだイランじゃないのだから出てもいいような気もする。働いている人はみなイスラムなのだから悪いものである酒をサービスするのはおかしい、という考え方をするのだろうか。

 アルコールが出ないだけではない。搭乗の直前から、それまでスカーフをしていなかったアジア系、西欧系の女性たちもほぼ全員スカーフをかぶった。イラン航空機の内では、夫以外の男性に髪を見せてはいけないというイスラムの教えにもう従わなければいけないようだ。ただ、ちゃんとした規則になっているかどうかはわからない。実は僕の配偶者はテヘランで飛行機を降りるまではスカーフをつけなかったのだが、注意をされるということはなかった。その姿を回りのイラン人の乗客たちや乗務員がどのように見ていたかはわからない。大目にみていた、ということなのかもしれない。

 飛行場にはダムハン大学のニマさん夫妻が迎えに来てくれた。ニマさんは今回の学会の運営委員の一人で、学会が始まるまでの二日間、僕らはテヘラン近郊の街カラジにあるニマさんの家に泊めてもらうことになっている。正確にいうと、そこはニマさんのお母さんがふだん一人で暮らしているアパートで、ニマさん夫婦の住まいは勤め先の大学があるダムハンという都市にあり、テヘランから300km以上も離れている。

 イランに着いた翌日に僕らはニマさん夫妻と4人でテヘランの街へ出かけたが、出かけ際、僕の配偶者の服装にチェックが入り"ダメだし"をされた。まずスカーフが小さすぎる。髪の毛を隠すだけでなく、首筋まで覆わなければいけない。(髪の毛と同じように、うなじも男を誘惑するものとみなされるのだろう)そこでスカーフをニマさんの奥さんから借り、首・肩までおおう巻き方を教わった。

 それだけでなく、服が明かる過ぎると言われた。僕の配偶者の服装は日本の基準からすればけっして派手ではなく、むしろあまり女性らしくない雰囲気のものだったと思う。もちろんスカートではない。それに真っ黒なコートを上に着る。しかしコートはレストランなど建物の中に入れば脱ぐことになるから、その下にもう一枚真っ黒な服を着なければいけない、と指導された。それで、腰の下までの長さがある真っ黒な服を借りた。ニマさんの妹さんの服らしいが、僕の配偶者はイランにいる間ずっとこの服は借りっ放しでお世話になった。

 スカーフを借りっぱなしでは申し訳ないので、その翌日にカラジの商店街で購入した。いくつか候補を絞り試しに頭に着けてみようという段になって、試着室へ行くように促された。試着室の中でスカーフを着けかえ、カーテンを開けて出てきて「これどう?」。イスラムの女性にとって、髪を見せるということは裸になるのと同じようなことなのだろうかとそのとき思った。ただ、僕の配偶者は別のところでもう一度スカーフを買ったのだが、そのときはその場で身に付けていたのを脱いで試着したという。


テヘランのバザール

 ところで男性の方にも服装に関してイスラム教の禁則がある。ネクタイをしてはいけないのだ。たしかに学会の場でもイランの方々は誰一人、たとえスーツを着ていても、ネクタイはしていなかった。なぜネクタイをしないのかとニマさんにたずねたところ、ネクタイと蝶ネクタイを合わせると十字架になる、つまりネクタイはキリスト教のものであり反イスラム的であるから、とのことだった。(みなさんご存じでしたか? でも本当だろうか)

 イスラム教徒がネクタイを使わないことはガイドブック(地球の歩き方)にも書いてある。ところが僕はそれを見落とし、学会で必要になるかもしれないからと、ネクタイを一本荷物に入れてきた。行きの飛行機の中でガイドブックを読んでいてその記述を見つけ、なんだネクタイなんて持ってこなければよかった、とそのときは思った。ところが、結果的にはネクタイを持ってきたのは実は大正解だったのだ・・

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