貧しさ

 バングラデシュは世界最貧国のひとつとされている。バングラデシュ人もそれはわかっている。ガイドブックによれば、一人当たりの平均年収は3万円弱である。一日当たり使える金が1ドル以下の人たちを「絶対的貧困層」といい世界で十五億人ぐらいいるとされているが、バングラデシュの平均値はその「絶対的貧困」の範囲に入ることになる。(絶対的貧困層は年々増加している。これが世界の貧困、格差の問題である)
 貧困の原因はいくつもある。繰り返される洪水、不安定な政治体制・・でもおそらく多すぎる人口が最大の要因ではないかと思う。人口は日本と同程度だが国土は1/3しかない。ダッカも東京と同じぐらいの人口があるといわれるが、どう見ても密度は東京の比ではない。ちょっと街を歩けばスラム街は見つかる、路上生活者の列に出会う、そして市場の近くに行けば必ず物乞いがいる。だが、ダッカを見てこれがバングラデシュだと思ってはいけない、とある人にいわれた。農村に行けばもっと悲惨であると。
 物価は、食品や生活雑貨類については日本の十分の一から数分の一ぐらいの感じだった。しかしその一方で、高級な品を扱うショッピングセンターに行くと、衣類(サリー)や靴はけっこういい値段がついている。日本も最近衣類や靴が安くなったから、あまり差がない感じである。もちろんこれは外国人向けというわけではない。なにしろ外国人観光客などそもそもほとんどいない国なのだ。
 また、大学の構内というか会議中には携帯電話を使っている人を何人も見かけた。(マナーはあまりよろしくない)Podderによれば、携帯電話の初期契約料が3万円以上するそうで、彼はその高額さゆえ携帯電話を使っていない。3万円といえば、ちょうどバングラデシュの一人当たり平均年収と同じぐらいである。
 携帯電話の方が、電話線を引く手間が省ける分、早く普及すると考えている人も世の中にはいるらしい。かって日本の首相がそのような主旨のことを言って嘲笑されたことがある。まったく、発展途上国の姿を見れば、そのような考えのばからしさがよくわかる。いまバングラデシュで電気も電話も使っていない人たちは、電話線や電線がないから使っていないのではない。彼らは、電気や電話を使うのに必要な現金収入が得られる経済活動に関われないでいるから、それらを使えないのだ。彼らの上に携帯電話の電波を届かせることは、なんら困難なことではない。しかしそれは問題の解決にはまったくならないのである。
 発展途上国でもITが進みつつあるというのは全くのウソではない。バングラデシュのような国でも何十万人だか何百万人だかの人が携帯電話やインターネットを使うようになる(なっている)だろうし、それで通信会社や電器メーカーはハッピーなのだろう。しかしそれは貧富のあるいは情報の格差を縮めることには少しもなっていない。単に格差を国外から国内へ持ち込んだだけなのだ。