Podder氏の家族

 Podder氏の配偶者はShyamaliさんという。向こうの言葉で木を表す名前とのことだが、生まれたのはタイだったそうで、タイの昔の呼び名シャムにもかけてあるとのこと。彼女は外資系(欧州)の種会社で、品種改良の仕事をしている。彼女の現在のプロジェクトはスイカの新品種の開発である。彼女によれば、日本のスイカは世界的に評価が高いが、日本の種をそのまま持ってきてもバングラデシュではうまく育たない。また、バングラデシュの農民は味より大きさを重視してしまう。そこで彼女は、日本のスイカをベースにして、バングラデシュの気候や土壌に合い、しかも大きくかつ甘いスイカの品種を作ろうとしている。(サカイとかタキイという日本の種会社は向こうでもよく知られているようだった)
 滞在中、その農場に連れていってもらった。きれいに整った農場で、カリフラワー、ブロッコリーなどが収穫の時期を迎えていた。(といっても、種会社なので収穫せずに最後まで成長させ、種をとるようだが)また畦(?)にはパパイヤが植わっていた。1メートルほどの小さな木だが実をたくさん付けていた。うれしいことに、そこで昼食をごちそうになった。もちろんメインは農場でとれた新鮮な野菜である。ウリの新芽のいためものを初めて食べて、柔らかさ、おいしさに驚いた。
 彼女が働く農場・研究所はダッカから数十km離れたところにある。農村地帯の真ん中に、先進国仕様の建物がぽつりと建っている。通勤には、朝夕の渋滞のせいもあって片道2時間もかかるという。交通手段は会社の自動車である。彼女の通勤のため一台の自動車と一人の運転手を会社が用意しているのだ。
 Podder家は自動車を持っていない。僕らの移動のため、彼はおじさんに頼んで自動車と運転手を用立ててもらっていた。彼のおじさんは建築のための融資をする政府の部門の重職にある。それで、自動車をいくらでも手配できるのだという。ダッカで過ごした最後の晩にPodderの家で夕食をいただいたが、そのときおじさんも招かれた。物静かで優しそうな紳士だった。
 Podderの家族は夫妻に5歳の息子、3歳の娘、それとPodderの母親である。息子さんは非常に恥ずかしがりやで、僕らの前にほとんど出てくることはなかった。(彼のその性格が、幼稚園でのいじめと関係がなければいいのだが)お母さんはふだんからあまりしゃべらず、動かず、というように見えた。
 それに加えてPodder家にはお手伝いさんがいる。バングラデシュではお手伝いさんを使っている家が多いそうで、彼の家でも使っていることを前もって聞いていた。家の中では、台所で小学生高学年ぐらいの年齢の女の子が炊事を手伝っており、もうひとり小学校にあがるかあがらないかぐらいの歳の女の子がPodderの子供たちと遊んでいた。僕らは、きっとあの子たちはお手伝いさんの娘さんなのだろうと思った。だがそれは違っていた。
 ダッカを発つ直前、空港に向かう途中に昼食を取りながら、僕はPodderに「あの女の子たちもお手伝いさんといっしょに家に住んでいるのか?」とたずねた。彼は一瞬意味が分からなかったようだが、すぐに笑って説明してくれた。
「あの子たちがお手伝いさんなんだ。あの子たちは孤児だった。僕らがお手伝いとして雇わなければ、あの子たちは路上で暮らさざるを得ない。お手伝いさんになれば、家も食べ物もある。僕らはあの子たちに自分の子供たちと同じものを食べさせている。読み書きも教えている。いずれは結婚相手を見つけ、結婚の準備もすべてしてやるつもりでいる」
前にも孤児をお手伝いさんとして雇い、結婚の世話までした。その後、Shyamaliさんの友人の紹介でいまの子たちを知り、雇ったのだという。
 このときになって、僕らはあの子たちにちゃんと挨拶をしなかったことを後悔した。(それに、おみやげを何も用意しなかったことも)